【3/30更新版】令和5年度事業再構築補助金の概要・変更点を分かりやすく解説
林

第10回の事業再構築補助金公募要領が2023年3月30日に発表されました。第9回公募からの変更点を中心に重要ポイントを分かりやすく解説します!

2ヶ月前に「令和5年度 事業再構築補助金の概要・変更点まとめ」の記事を書きましたが、先日公募要領が正式に公表されましたので、重要ポイントについて改めて解説していきます。なお、本記事ではわかりやすさを優先し、細かい論点については省略している部分もありますので、実際の申請にあたっては事業再構築補助金ホームページに掲載されている公募要領や事業再構築指針などをご確認ください。

まず始めに、第10回公募のスケジュールは以下の通りです。

  • 公募開始:令和5年3月30日(木)
  • 申請受付:調整中
  • 応募締切:令和5年6月30日(金)18:00
  • 採択発表:令和5年8月下旬~9月上旬頃

補助対象経費は、これまでと同じく建物費または機械装置・システム構築費と、それに付随する経費です。原則として自社の事業のありようを大きく変更する事業再構築に必要な設備投資が補助金の対象となります。

事業再構築類型、申請枠、申請要件について大きな変更がありました。事業再構築の計画を検討する上で、そもそも補助金の対象となる事業かどうかに大きく関わる部分ですので、これらを中心に解説していきます。

事業再構築類型について

第9回公募までは、新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、事業再編の5つの類型に分かれていましたが、第10回公募では、以下の5種類に変更となりました。

事業再構集の類型 必要となる要件
新市場進出
(新分野展開、業態転換)
①新たな製品・商品・サーヒスを提供すること、又は提供方法を相当程度変更すること
②新たな市場に進出すること
③新規事業の売上高が総売上高の10%以上になること(付加価値額の場合は、15%以上)
事業転換 ①新たな製品・商品・サーヒスを提供すること
②新たな市場に進出すること
③主要な業種が細から中分類レベルで変わること
業種転換 ①新たな製品・商品・サーヒスを提供すること
②新たな市場に進出すること
③主要な業種が細から大分類レベルで変わること
事業再編 会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業語渡)等を補助事業開始後に行い、新たな事業形態のもとに、新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業転換、業種転換のいすれかを行うこと
国内回帰 ①海外で製造等する製品について、国内に生産拠点を整備すること
②先進的な設備を導入すること
③事業で製造する製品の売上高が総売上高の10%以上になること(付加価値額の場合は、15%以上)

※「国内回帰」は、サプライチェーン強靱化枠に申請する事業者のみ選択可能 (申請枠については、後ろのパートで解説します。)

これまでの新分野展開と業態転換がなくなり、「新市場進出」としてまとめられました。まとめられた・・・というよりは、業態転換(製造方法等を転換する)がなくなったと理解した方が良さそうです。

すなわち、事業再構築においては「新たな製品・商品・サービスを提供」し、「新たな市場に進出」することが必須要件となります。その結果、自社の主要な業種が変更になった場合は、事業転換や業種転換に相当し、その上で会社の組織再編(合併・分割など)を行う場合は、事業再編となります。

また、②新たな市場に進出すること(市場の新規性要件)の記載方法に以下の変更がありました。

  • 従来: 既存製品等と新製品等の代替性が低いこと
  • 第10回: 既存事業と新規事業の顧客層が異なること

第9回までは、新製品が既存製品と異なるものであれば、顧客が一致していても市場の新規性が認められましたが、第10回からは新たな顧客を獲得することが必須であると読み取れます。事業計画を策定する上で注意が必要です。

申請枠について

従来の「通常枠」「大規模賃金引上枠」の廃止を含め、申請枠の新設・再編が行われました。細かい申請要件は、後ろのパートで解説しますが、各申請枠のざっくりとした内容は以下の通りです。

  • 成長枠 : 市場規模が拡大している(する)成長市場へ進出する取組み (成長市場の指定あり)
  • グリーン成長枠 : グリーン成長戦略「実行計画」14分野に進出する取組み
  • 産業構造転換枠 : 市場規模が縮小している事業を行っている企業が、別の事業に進出する取組み (縮小市場の指定あり)
  • サプライチェーン強靱化枠 : 海外で製造または調達している製品を、国内で製造できる拠点を作る取組み(製造業限定)
  • 最低賃金枠 : 最低賃金引上によって業況が苦しい事業者が、新たな事業に進出する取組み
  • 物価高騰対策・回復再生応援枠 : 物価高騰などにより業績が悪化している事業者が、新たな事業に進出する取組み

各申請枠の、補助金上限額と補助率は下表の通りです。

申請枠 従業員数 最大補助金額 (円) 補助率
成長枠 20人以下 2,000万 中小企業等1/2
(大規模賃上げの場合2/3)
中堅企業等1/3
(大規模賃上げの場合1/2)
21~50人 4,000万
51~100人 5,000万
101人以上 7,000万
グリーン成長枠
(エントリー)
20人以下 (中小企業) 4,000万 1/2
(大規模賃上げの場合2/3)
21~50人 (中小企業) 6,000万
51人以上 (中小企業) 8,000万
全て (中堅企業) 1億 1/3
(大規模賃上げの場合1/2)
グリーン成長枠
(スタンダード)
全て (中小企業) 1億 1/2
(大規模賃上げの場合2/3)
全て (中堅企業) 1.5億 1/3
(大規模賃上げの場合1/2)
産業構造転換枠 20人以下 2,000万 中小企業2/3
中堅企業1/2
21~50人 4,000万
51~100人 5,000万
101人以上 7,000万
サプライチェーン強靱化枠 全て 5億 中小企業1/2
中堅企業1/3
最低賃金枠 5人以下 500万 中小企業3/4
中堅企業2/3
6~20人 1,000万
21人以上 1,500万
物価高騰対策
・回復再生応援枠
5人以下 1,000万 中小企業2/3
中堅企業1/2
6~20人 1,500万
21~50人 2,000万
51人以上 3,000万

成長枠は、これまでの通常枠と比較して補助率が引き下げとなっています。(従来は中小2/3、中堅1/2でした。)
ただし、成長枠とグリーン成長枠については、給与支給総額を大規模に引上げることで補助率UPを申請することが可能になりました。(補助金採択後に、給与支給総額を年率6%以上増加させ、事業場内最低賃金を45円以上引上げることが必要。)

また、成長枠・グリーン成長枠と合わせた申請可能な上乗せ枠として卒業促進枠と大規模賃金引上促進枠の2つが設定されました。これにより補助上限額を大きく引上げることが可能で、大規模な設備投資に対応することが可能です。(要件は後述しますが、結構厳しめです。)

申請枠 最大補助金額 (円) 補助率
卒業促進枠 同時申請した申請枠と同じ 中小企業者等1/2
中堅企業者等1/3
大規模賃金引上促進枠 3,000万 中小企業者等1/2
中堅企業者等1/3

なお、卒業促進枠と大規模賃金引上促進枠の両方を使うことはできません。また、上乗せ枠の補助金は事業計画実施3~5年後に要件をクリアーした場合に支給されます。

申請要件について

申請要件についても変更がありました。大きな変更点は以下の通りです。

(コロナ以前からの)売上減少要件の撤廃

これまでは「コロナの影響により売上高が減少した事業者」が事業再構築補助金に申請可能でしたが、この要件が撤廃されました。最低賃金枠および物価高騰対策・回復再生応援枠では、売上減少要件がありますが、これば2022年以降の売上高を対象としています。

給与支給総額増加要件の追加

成長枠、グリーン成長枠、サプライチェーン強靱化枠では3~5年の事業計画期間の給与支給総額を年率平均2%以上増加することを求められています。また、成長枠、グリーン成長枠については賃上げ割合を増加することで審査の加点(年率3~5%)が得られたり、補助率を上昇(年率6%)するといった特典が設定され、賃上げをかなり重要視しています。

給与支給総額の増加については、計画未達の場合は事業者名公表や、補助率上昇分の返還などのペナルティーがあります。

事業計画を作成する上で、売上・利益と同様に人件費増加の精査を行う必要があります。

進出する事業または既存事業の市場に関する制限

従来の通常枠では特に指定がなかった新規進出事業の市場について、成長枠では「10年間で10%以上拡大した(する)成長市場」という制限が設けられました。また、サプライチェーン強靱化枠についても成長市場且つ製造業という制限がついています。対象市場については、事業再構築補助金のホームページに公開されています。

現在公開されている対象市場については、以下の記事を参照ください。

※2023/3/30に、上記以外にも宇宙機器産業・ 宇宙利用サービス産業・リチウムイオン蓄電池の製造に使用するために特に設計又は加工した部素材の製造業・アート産業が追加されています。

公開されている対象市場以外であっても、業界団体や公的データを基に成長市場であることを客観的に説明できる場合は、成長枠の対象市場として認められる場合があります。

進出先の市場に対する制限は、グリーン成長枠でも「グリーン成長戦略実行計画14分野」という制限がありますが、これは第9回以前と同様です。

グリーン成長戦略実行計画14分野
グリーン成長戦略実行計画14分野

また、成長枠、グリーン成長枠、サプライチェーン強靱化枠とは逆に、産業構造転換枠では既存事業が属する市場(または地域)について指定があります。3/30時点で指定されているのは、「出版業および書籍・雑誌小売業」「粘土かわら製造業」の2業種と、「日本製鉄(呉市)」「ENEOS(有田市)」「王子マテリア(名寄市)」との取引額が多い事業者のみとなっています。縮小市場については3/30時点において、新たな追加を申請できるのは業界団体や地方自治体に限定されています。

申請枠ごとの要件一覧

申請枠ごとの要件は下表の通りです。(重要ポイントのみ抜粋しているため、全ての要件について記載されているわけではありません。)

申請枠 付加価値額増加 給与支給総額増加 売上高等減少要件・再生要件 その他、事業内容等に関する要件
成長枠 年率平均4%以上 年率平均2%以上※ なし 取り組む事業が、過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属していること【市場拡大要件】
グリーン成長枠(エントリー) 年率平均4%以上 年率平均2%以上※ なし グリーン成長戦略「実行計画」14分野に掲げられた課題の解決に資する取組であって、その取組に関連する1年以上の研究開発・技術開発又は従業員
の一定割合以上に対する人材育成をあわせて行うこと【グリーン成長要件】
グリーン成長枠(スタンダード) 年率平均5%以上 年率平均2%以上※ なし グリーン成長戦略「実行計画」14分野に掲げられた課題の解決に資する取組であって、その取組に関連する1年以上の研究開発・技術開発又は従業員
の一定割合以上に対する人材育成をあわせて行うこと【グリーン成長要件】
産業構造転換枠 年率平均3%以上 なし なし 現在の主たる事業が過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上縮小する業種・業態に属しており、当該業種・業態から別の業種・業態に転換すること【市場縮小要件】
サプライチェーン強靱化枠 年率平均5%以上 年率平均2%以上 なし 事業再構築が「国内回帰」であること
取引先から国内での増産要請があること【国内増産要請要件】
取り組む事業が、過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属していること(製造業限定)【市場拡大要件】
最低賃金枠 年率平均3%以上 なし 2022年1月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が対2019~2021年の同3か月の合計売上高と比較して10%減少していること 2021年10月から2022年8月までの間で、3か月以上最低賃金+30円以内で雇用している従業員が全従業員数の10%以上いること【最低賃金要件】
物価高騰対策・回復再生応援枠 年率平均3%以上 なし (a)(b)のいずれかを満たす
(a)2022年1月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が対2019~2021年の同3か月の合計売上高と比較して10%減少していること
(b)再生事業者であること
進出先の市場・既存事業の市場についての指定なし

成長枠・グリーン成長枠の補助率引上の追加要件補助事業期間内に給与支給総額を年平均 6%以上増加させること
補助事業期間内に事業場内最低賃金を年額 45 円以上の水準で引上げること

また、成長枠、グリーン成長枠と併せて申請可能な上乗せ枠についての申請要件は以下の通りです。

申請枠 要件
卒業促進枠 現在の企業規模からの卒業(中小企業から中堅企業、中堅企業から大企業へ成長など)【卒業要件】
大規模賃金引上促進枠 補助事業終了後3~5年の間、事業場内最低賃金を年額 45 円以上の水準で引上げること【賃金引上要件】
補助事業終了後3~5年の間、従業員数を年率平均 1.5%以上増員させること【従業員増員要件】

まとめ

申請枠や申請要件の変更から、産業構造の変革(成長市場へのシフトや雇用環境の改善)に対する行政の強い意志が感じとれます。本記事では解説しなかった審査項目についても大きな変更はありませんが、審査観点に細かな変更が存在しており、より戦略的な事業計画を立てるが要求されていると感じました。

事業計画の立て方については、事業再構築補助金ホームページにある公式攻略テキストである事業再構築〜虎の巻〜「事業計画書作成ガイドブック」も非常に参考になるので、ご興味がある方は一読をお勧めいたします。

林

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